GROK3に人間が回答するwebサービスを聞いたら「はてな人力検索」が出てこなかった件 - orangestar2
このエントリを読んで、今日までの検索と質問の文化を振り返りつつ、人力検索の未来について考察してみる。
ググレカスの時代背景
2006年から2015年頃、2chは活気に満ち、まとめサイトもそのエコシステムとして栄えていた。この時代に生まれた「ググレカス」というミームは、自分で調べもせずに他者に答えを要求する人々への侮蔑を込めた言葉だ。これはWikipediaの削除記録から推測するに、2006年には既に存在していたと考える。
Wikipedia:削除された悪ふざけとナンセンス/ググレカス
ググり力の壁
ググレカスと言われてしまう人の中には、単に面倒で誰かに聞いた方が早いと考える人もいたが、本当に「ググるのが下手な人」も存在していた。つまり、「どのキーワードで検索すれば目的の答えに辿り着けるか見当がつかない」人だ。
この「ググり力」と呼ばれる能力は、ネット黎明期の重要なリテラシーだった。当時のGoogle検索では、関連する第一キーワードで調べた後、スペース区切りでさらに対象を絞り込んでいくという手法が必要だった。これはラテン語圏であれば自然言語として入力しても検索できるようになっている Google の仕様とされる。
しかし、第一キーワードの選択自体が不適切だと、どれだけ絞り込んでも欲しい結果は得られない。そんな時、人に自然言語で相談することが必要になる。特に当時はまだ発達していなかったIT関連の質問や、身近な人には聞きづらい・答えを持っていないであろう疑問は、インターネットに答えを求めることになった。
QAサイトの登場と人力検索の価値
このような背景から、Yahoo!知恵袋などのQAサイトが発展した。また、検索エンジンでは対応しきれない情報を人力で検索する試みも行われていた。音楽のイントロを空耳化したりオノマトペ化したりした文字列から曲名を特定する2chスレのように、人間ならではの感性や音象徴により答えを導くという価値があった。
現在では、ShazamやSoundHoundのような専門サービスが発達し、音楽検索の分野ではAIが進化している。しかし、2025年現在もYahoo!知恵袋では「この曲のタイトルを教えてください」という質問が時折見られ、それに応える人々がいることは驚きだ。
この曲のタイトルを教えてください。誰でも一度は聞いたことがあるような有名な曲だと思うのですが、歌詞がわかりません。チャンチャラチャ... - Yahoo!知恵袋
このため、人力検索の価値は、深刻なSEO汚染も発生させたが、特定のコンテキストにおける局所的な解を導く可能性が最も高いサービスとして、一定の地位に立つ。
一方、2010年に Google が人力検索サービス「Aardvark」を買収するも、翌年2011年にサ終させていることからも、人力検索の限界が見えていた可能性はある(GoogleがAardvarkを買収した理由は定かではないし、サービスの価値がなかったから廃止されたのかビジネス的な旨みがなかったからやめたのかは知らない。とにかくGoogleはコミュニティサービスの運用は下手くそだ。広告出稿者のサービスの広告を出した方がお金になるからあえて潰して回っているという話もあるが)。
AI 検索時代の到来
Google も、数年前から、ラテン語圏以外(まぁ検索では日本語が英語でしかしたことがないので、ラテン語圏以外は日本語のことを指すのだけれど)であっても、自然言語でクエリしても、それなりに制度の高い結果が得られるようになってきていた。
そんな最中、LLMとChatGPTが登場。検索エンジンの価値は大きく毀損している。正直、今私自身も、検索はGoogleとPerplexityで半分半分。プログラミングやSDKのドキュメント調査に関しては Claude に聞いたり Copilot の補完をまったり、なんならClineに書かせたり…という状況になっている。今後のベストプラクティスはどうなるかはさておき、オープンな情報源の提示が必要ではあるが、より精度の高い応えを引くために常にGoogleを使ったり、それこそYahoo!知恵袋を使うということは、ますます減っていくと考えるのが順当だろう。
人力検索の未来像
そんな世の中の潮流にあって、人力検索が必ずしもなくなると私は思わない。今後、人力検索は3つの方向に収斂していくと見ている。
ひとつは、高いカリスマ性を持つ人間が問いに答えること自体に価値を見出す「AMA (Ask Me Anything )スタイル」(※これいつの間にか死後になったなぁ…)。これは既に著名人によるYouTube配信として行われている。投げ銭システムによって質問が読まれる仕組みは小さなビジネスとなり、同時に配信者の権威を高め、配信者の他商材への誘導に繋がっている。
ふたつめは、質問者・回答者ともに高い匿名性を保ちながら、内部事情を共有する形態だ。転職会議やオープンワークのような転職市場の内部情報共有サービス、招待制コミュニティなどがこれに該当する。情報操作のリスクはあるが、それでも転職のような情報の非対称性が高い行為において、一般人が気軽に取れうるデューデリとしてはとても有効な状態にある。
Yahoo!知恵袋のように誰でも閲覧できる場でのやり取りが今ではリスクとなり、閉じたコミュニティの価値が高まっている。こうした情報はCommon Crawlにも収集されないため、LLMの学習ソースにならず、特定の人間だけが利用できる知識となる。会社のSlackチャンネルもこの範疇に入るだろう。
最後は、AIが出力することを規制している情報を答えるというややアングラよりの形態。犯罪に利用される可能性があるもの、差別に繋がりかねないもの、過度に性的なものについて、AIはレスポンスを出力してくれない。Grandma exploit などの手法を使って無理やり出力させる手法とそれに対する防御手段は日夜開発されるが、イタチごっこだろう。
なので、人力検索サービスが生き残るとしたら、上記の3つのいずれかに収斂すると考えている。
はてな人力検索が、このいずれかの方向性に合致しているかと言われると、微妙なところ。ピボットすれは、今後も残っていく可能性はあるかもしれない。
人間が答えることの価値
じゃあ人間が人間から質問を受け取り、それに答えるという行為にはなんの意味があるだろう?
ビジネス界隈では「より高い価値のある人だけがコンサルとして生き残り、先鋭化し、それ以外は淘汰される」といった言説が蔓延るが、私はそうは思わない。質問された側のコンテキストから生成される答えにはなんらかの価値は必ず宿ると考える。
近頃の退職代行サービスの是非のように、ブラック企業で働いて酷い目に遭った人と、がむしゃらに働き会社を経営している人の、退職代行サービスに対する考え・視座は、揃っているように思えないそれぞれの自分の人生経験によって定義された「スキーマ」を通してしか物事を語れてはない。
AIは、その差を適切に埋められるんだろうか。AIを先鋭的に使うことで、新たなフィルターバブルの発生に繋がらないことを祈りたい。。